NIKKI

サッカーの誤審と不条理劇。

2019.07.18

 

スポーツの世界はどこでも「誤審」というのがしばしば話題になります。去年、一昨年あたりからヨーロッパや世界の大きなサッカーの大会では「VAR(ビデオアシスタントレフェリー)」という仕組みが導入されて、「わからなかったらテクノロジーの力を借りる」というのがトレンドになりました。日本のプロ野球でもビデオ判定のリクエスト制度が今採用されています。

マラドーナの神の手とか、オリンピックの柔道とか、誤審についての話をすればきりがなく、そもそも人間が目で見て判断する以上、誤審は避けては通れないというか、それもゲームの一部、という感覚で楽しむのがいちばんいいのですが、それでも応援しているチームがそのせいで負けたり、応援している選手が不利益を被ったりするとやはり腹が立つわけです。

で、昨日、DAZNの「Jリーグジャッジリプレイ」という動画コンテンツを見ました。今話題の誤審、Jリーグ横浜FM対浦和戦のゴール判定が熱いです。すごく熱いです。

どういう誤審(問題)だったかというと、まず①横浜の選手のシュートがオフサイドの位置にいた横浜の別の選手(仲川選手)または浦和の宇賀神選手のどちらかに当たってゴールネットを揺らします。②そして横浜のゴールが認められます。③ところが一転、仲川選手がオフサイドだったとして横浜のゴールが取り消されます。④しかしその後、再び横浜のゴールが認められたのです。得点者は仲川選手。結局ゲームが再開されるまで10分近くの時間を要しました。JリーグではまだVARを導入していません。

DAZNでJリーグチェアマンの原さん、JFAの上川さんが解説するところによると、①で仲川選手がオフサイドの位置にいたことは明白で審判団も認識していた。でも仲川選手のゴールか宇賀神選手のオウンゴールかは判断しきれなかった。で、宇賀神選手に最後に当たった可能性が高いのでとしてゴールを認めた②(仲川選手に最後に当たっていたらオフサイドの反則になるので、この場合はオウンゴールということ)。ところが、ここで副審とピッチの外にいる第四審判が「ゴールしたのは仲川選手だ」という情報を主審に伝えます。仲川選手はオフサイドの位置にいたわけですから、じゃあオフサイドだね、ってことでゴールが取り消されます。これが③の段階。でも直後、その「ゴールは仲川」情報は、実は審判が見て判断したのではなく横浜の運営サイドから得た情報だと分かります。で、「審判団が外部の情報を得てジャッジを変えるのは正しくないわ。オフサイドって言ったけど、そういう決め方ダメだわ、今のなし!」ってことでオフサイド判定が取り消され、④「ノーゴール」が「ゴール」に戻った。そういう流れらしいのです。文字で書いてもうまく伝わらないと思うので興味のある人はYoutubeとかでそのシーンを見てください。

この誤審問題の何が面白いかというと、①「横浜の仲川選手がオフサイドの位置にいた」という前提は、誰が見ても明白な客観的事実なのです。審判団も全員そのように認識していたし、後から映像を見ても明らか。でも、最終的に公式記録は④「横浜の仲川選手のゴール」になっているということ。「え、仲川のゴールならオフサイドだよね?ゴールならオウンゴールしかないよね?」 サッカーのルールを知っている人であれば10人中10人がそう思う。でも、その矛盾がなぜか成立している、というところ。

今回、少なくとも最終的なジャッジを下した主審は、正しい判断を積み重ねて結論を出したと僕は思います。「よくわからない」というところからスタートして、疑問をひとつずつ解消し、限られた情報を活用して誠実に仕事をした。ところがその正しいはずのプロセスによって、結果がありえないことになってしまった。「仲川がゴールを決めたなら、それはオフサイド」というところからはじまったのに、「仲川がゴールを決めた」で決着せざるをえない。その喜劇性が、すごくいい。正しいはずのことを積み重ねた結果、壮大な不幸が待っている。喜劇的悲劇といってもいいかもしれない。人生のむなしさ、みたいな演劇的な不条理。そこにワクワクします。

ちなみに映像で見る限り、おそらく事実として正しいのは「オフサイドでノーゴール」。VAR、来年Jリーグに導入されるでしょう、きっと。