NIKKI

HIGHEST QUALITY。

2019.08.16

 

盆明けの金曜日。しばらく家で健康的な食事をしていた反動か、無性に脂っこいラーメンが食べたくなった。台風が去ったあと、逃げた獣が最後に濡れた尻尾をぶるんと勢いよく振り上げるような一時の雨の中、車を運転して目的のラーメン屋に入り注文を済ませると、なんとなく手持ちぶさたになった。いつもならポケットからスマホを抜いてネットをだらだらと見たり、文庫本をめくるのだけれど、そんな気分になれないのは、今月に入ってから、信頼する人に仕事上で大きな迷惑をかけてしまい、その謝罪さえまともにできないままいろいろなことがストップしているからだ。自分の愚かな言動のせいで胸を痛め大変な思いをしている人がいるという事実は、身体を硬直させる。力が入らない。腕が持ち上がらない。それは誰か親しい人を亡くしたときの身体の状態に似ている。呼吸は常に浅く、ため息のように下向きになる。テーブルの目の前に、これまで数え切れないほどたくさんのラーメン屋や中華店で目にしてきた胡椒の缶があった。普段は気にもとめない文字を追う。原産地、販売者、NET WT。円柱形のその缶の横っ腹には、「HIGHEST QUALITY」と印字されていた。ハイエスト・クオリティ。すごい自信だなと思った。自分の仕事を「HIGHEST QUALITY」と表現することができるか、と問うまでもなく、ため息は深くなる。「HIGHEST QUALITY」はけっして人に迷惑をかけないだろう。むしろ、関わる人々に誇りや矜恃や、強い自負を与えるのだろう。人を信じさせるだろう。そんなことをつらつら考えているうちに、ラーメンが運ばれてきた。生姜醤油の香ばしさが鼻を刺激する。いくら心が折れても、食欲は正直に人の身体を動かす。ただ、割り箸立てには手を伸ばせても、胡椒の缶をつかむことはできなかった。