NIKKI

口内炎も心を乱す。

2019.09.05

 

下唇の内側、中心よりやや左寄りの粘膜に、目測で直径7mmはあろうかという巨大な口内炎が発生した。痛い。めちゃくちゃ痛い。くぼんだ潰瘍が歯ぐきに触れる度に、おうぅっ、となる。熱いうちはお茶も飲めない。できるだけ薬には頼りたくないのだけれど、飲食の度に拷問を受けているような気分なので、仕事の合間にドラッグストアに走った(実際には走ると刺激が生じて激痛なので車で行って、店内はゆっくり歩いた)。

以前、同じくらいの規模の口内炎に苦しめられたとき、救済を求めて駆け込んだドラッグストアでフィルムタイプの薬を見つけ、試しに買って貼ってみたところ、貼っている間だけは天国を実感するほど劇的に痛みが消えたので、今回もそれを購おうと思った。ところが、医薬品コーナーに常駐しているらしい薬剤師のおばちゃんが「そうねえ、どちらかといえばステロイドの入ったクリームタイプがおすすめよねえ」と昔からの知り合いみたいな口調で言うものだから、信じるものは救われる、それを信じてクリームタイプを買った。ああ、これで痛みから解放される。そう確信していそいそと駐車場の車に戻り、説明書に指示している通り、クリーム状の薬剤を指で適量すくい、丁寧に患部に塗布した。よかった、これで痛みが消える。はずが、

もんのすごい激痛だった。ぐぶおぉぁ。フィルムタイプを使ったときはこんな痛みはなかった。騙された。車を運転しながら薬剤師のおばちゃんを恨んだ。ちょうど昼時だったので、ランチをどの店にしようか考えながら運転したかったのだけれど、液状のものをストローで直接喉に流し込む以外に栄養を摂取する方法が思いつかない。というか、怨毒によりそれどころじゃない。ドラッグストアに引き返して、今度はフィルムタイプの薬を買おう。薬代が倍かかってとても悔やまれるが、痛いのだ。仕方ない。これでは食事どころか仕事もできない。道をぐるっと迂回するようにして、ドラッグストアに戻った。

道中、あのおばちゃんのことを考えた。もしこれがタランティーノの映画だったら、これからはじまるのは確実にバイオレンスシーンだ。車のダッシュボードに隠した小銃が、漢方薬なんかを暢気に並べているおばちゃんのこめかみに突き立てられる。医薬品コーナーは血にまみれる。そんな場面を想像しながら、駐車場に車を駐めた。ドアに手をかけて、ふと気づいた。あ、痛みが治まってる。そりゃあ、塗ってすぐなんか効かないよな、と、当たり前のことを思った。痛みというのは正常な思考をおかしくするらしい。とりあえず早く治れ。