NIKKI

コロナ禍と細雪。

2020.05.04

 

今年の冬にブックオフで見つけた谷崎潤一郎の「細雪」。ほるぷ出版昭和60年第二刷(底本は昭和23年刊行)。函入りの上製本で装画は安西水丸、品のよい装丁に引かれて手に取ってみたら、文字が大きく行間も読みやすくとられていて、上・中・下巻揃って一冊あたり370円というお手頃価格だったので購入したところ、折からのコロナ禍による軟禁生活、そして体調不良と、はからずも読書に最適な状況となったので、3月の末からゆっくりじっくり、ひと月以上かけてちょこちょこ読み進めながら、ようやく読了。

市川崑の映画の方は何度も観ているので、その配役をこちらにも当てはめて、戦前の蘆屋の旧家の(斜陽の上流階級の)暮らしを存分に楽しみました。上・中・下の三冊に分かれるだけあってずいぶん長い、本を積み重ねると10センチもある物語だけれど、谷崎潤一郎の筆運びはちっともべとつかず、からりとした風が心地よく、災害やら病気やら死別やら、引き込んではらはらとさせるポイントも随所にあって、登場人物もみんないきいきと魅力的。それでいてエンタメ大河かといえばそうではなく、語られるのは結局、三女の見合いがうまくいくかどうか、というだけの話という、あっけなさ。

面白いのは、描かれた昭和十年代、世界情勢が焦臭くなって緊縮・自粛の世の中になっていくのが、ちょうどコロナ禍、情勢不安の今の雰囲気と重なって読めるところで、ぜひ人に薦めたいと思うのだけれど、「えー、谷崎?大谷崎?読む読むー!」と喜んで手にとってくれるような人が身近に見当たらないのが、ちょっと口惜しい。

DVD買おうっと。細雪が好きな人、いないかな。