WORKS
黄色い砂時計

黄色い砂時計

戯曲 - 2011

INTRODUCTION

演劇製作集団あんかー・わーくす 第六回セルフプロデュース公演[湊物語シリーズ]のために書き下ろした戯曲を、公演会場にて文庫サイズで限定リリース。

 

STORY

とある暑い夏の日、旧黒埼大野町に古くからある診療所の院長がひっそりとこの世を去った。通夜には、彼の娘たちが久しぶりに集まる。かつてはひとつ屋根の下で仲良く幼少期を過ごした三姉妹だったが、今ではそれぞれまったく別の人生を歩み、姉妹の交流は断絶していた。夜、弔問に訪れたのは、隣家で砂時計工房を営んでいる二代目の工場長。彼は三姉妹の母親が亡くなった日以来、この家には一度も足を踏み入れていなかった。父親と工場長の不仲は、三姉妹にとって永遠の謎だった。誤解をとくため、訥々と過去を語り出す工場長。その昔話には、三姉妹の知らない、やさしさに包まれた不思議な三角関係と、母と工場長の、砂時計の悲しい約束があった。

SELF LINER NOTES

せっかく戯曲を書いたのだから、ステージとして観てもらうだけじゃなくて読んでもらいたい。というわけで会場で限定販売した文庫サイズの小さな本です。はじめての演劇の脚本ということで、ひたすら手探りで書いていただけあり、数年経って読み返しても書いた当時の感覚、疲労感がはっきりと思い出せます。机の手触り、麻の座布団のざらざら感、部屋の薄暗さまで。できるだけ説明台詞に頼らないで舞台上の人間関係を観客に理解させるにはどうすればよいか(特に一家と隣家の工場長の関係)、伝えたいことの強弱は台本上でどのように表現すれば伝わるのか、どのくらいの「クドさ」なら許されるのか。上演されてみないとわからないことばかりで、その点、今読み返すと少しクドい感じはありますが、でも処女作としてはけっこうよくできていると思っていて、物語の構成の組み上げ方はこのときに自信をつけた、という感触が記憶として残っています。この話は積年の「誤解」を解消する物語です。口にすべきこと、口にすべきではないこと、知るべきこと、知る必要のないこと。家族には常に秘密があるし、秘密のない家族は気持ち悪い。そのテーマは、書いた当初よりもむしろ「家族」のキャリアを積んだ今の方が「作者」としてもよりリアルです。今書き直せば、緩い部分がかなりシャープになって、コクみたいなのを出せるんじゃないか。いつか再演しないかな、そうしたらもっといい作品になりそうなのに。なんて思ったりします。(2019.7.16)